6.受け継がれる近代建築も名建築も見逃せない
■国際子ども図書館

国際こども図書館は、1906年に建てられた旧帝国図書館を2002年に大幅リニューアルした建築で、改修のデザインは世界的にも著名な建築家安藤忠雄氏が行っています。
実はこの建築、はじめに建設された約100年前も日露戦争による影響から未完成の部分があった未完の建築でしたが、安藤氏はこの近代遺構にガラスの箱を貫入させることで新たな建築として生まれ変わらせました。
壮大な空間に光が溢れ、遥か昔の建築の壁面が地層の様に表れ新旧がぶつかり合う空間は、思わず息を呑んでしまうほどの美しさがあります。
時代が移り変わって尚、存在し続ける建築の醍醐味を存分に体験できる建築です。

詳細レポート
・上野「国際子ども図書館」新旧が融合した素敵図書館をレポート
設計:久留正道+真水英夫(改修:安藤忠雄+日建設計)
所在地:東京都台東区上野公園12-49
アクセス:上野駅より徒歩約10分
竣工:1906年(2002年改修)
公式HP:https://www.kodomo.go.jp/
■自由学園 明日館

自由学園明日館は、今から100年前の1921年に近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトと弟子の遠藤新の手により建てられた校舎です。
当時帝国ホテルの建設の為に来日していたライトは、自由学園の創立者である羽仁夫妻の教育理念に共鳴しこの建築をデザインするに至りました。
周囲の環境を丁寧に読み解き、幾何学形態を多用しながらデザインされた建築からは、自然に寄り添いながらも人間の持つ知性への信頼と期待をハッキリと感じ取ることができます。
1989年(平成元年)には大規模な補修工事がなされ、一般の見学者にも広く開放されています。特に見学の際は特に喫茶付きの800円のプランがおススメ。
ライトとその意志を継ぐ沢山の人たちの手によって残る至高の建築を、是非人生のうち一度は体験してほしい至高の建築です。


設計:フランク・ロイド・ライト+遠藤新(講堂は遠藤新)
所在地:東京都豊島区西池袋2-31-3
アクセス:池袋駅より徒歩約12分
竣工:1921年、1927年(講堂)
開館時間:通常10:00~16:00
休日見学日10:00~17:00(指定日)
休館日:月曜日、年末年始
見学料:見学のみ500円、喫茶付き見学800円
公式HP:https://jiyu.jp/
備考:国指定重要文化財
DOCOMOMO Japan選定
■日本橋高島屋

日本橋高島屋は、関東大震災の復興建築として、高橋貞太郎氏のコンペ一等案に基づいて建てられた百貨店です。
1933年に建てられて以降は、建築家村野藤吾氏によって度々増築がなされているのも特徴で、2009年には百貨店建築としてはじめて重要文化財にも登録されました。
西洋の様式の中に時折見える日本の伝統建築を受け継いだ工夫やモチーフが随所にみられるのも見どころの一つで、建築家たちの努力と知性がそこ彼処に埋め込まれています。
正面の装飾から内部の照明・階段といった細かい部分まで見応えは抜群で、どこを見てもつくり手の工夫と歴史を体感できるまさに名建築です。

設計:高橋貞太郎+片岡安+前田健二郎(増築:村野藤吾)
所在地:東京都中央区日本橋2-4-1
アクセス:日本橋駅より徒歩約2分、新日本橋駅より徒歩約4分
竣工:1933年(1952年増築)
公式HP:https://www.takashimaya.co.jp/nihombashi/
備考:重要文化財
■高輪消防署 二本榎出張所

高輪消防署二本榎出張所は、高輪ゲートウェイ駅から徒歩なく歩いたところに建つ消防署です。
1933年に竣工した建物は、現在も火の見櫓が残る戦前の消防署としては都内で唯一の建物となっています。
当時は周りに高い建物はなかったでしょうから、この建物の上部に上がって日々街を見張り、街の安全を守ってきたと思うと感慨深いです。交差点の立地をうまく利用した丸みを帯びた外観や、出窓の微妙にアールがついたカーブからは優しい印象も受けます。
街のランドマークとして長きに渡って地域の人に親しまれてきたのがよく伝わる、素敵な近代建築です。

設計:越智操
所在地:東京都港区高輪2-6-17
アクセス:高輪ゲートウェイ駅より徒歩約5分
竣工:1933年
備考:東京都選定歴史的建造物
■迎賓館 赤坂離宮

迎賓館 赤坂離宮は、明治時代の終わりの1909年に東宮御所として建設されたネオ・バロック様式の宮殿建築です。
設計を手掛けた片山東熊は、工部大学校(現在の東京大学)の建築学科第1期生であり、このブログでも東京国立博物館表慶館やグランドプリンスホテル高輪貴賓館を紹介した明治時代を代表する建築家でもあります。
現在は、国の迎賓施設として使われていますが、定期的な公開日には内部を見ることができます。
東京23区内で唯一国宝にもなっている建築は、豪華絢爛、当時の日本の建築、美術の粋を尽くした建築となっていて、震えるような建築美を体感できるイチオシの建築です。

詳細記事
・赤坂「迎賓館 赤坂離宮」東京23区唯一の国宝!魅力溢れる近代建築をレポート
設計:片山東熊
改修設計:村野藤吾
所在地:東京都港区元赤坂2-1-1
アクセス:赤坂見附駅より徒歩約15分、四ツ谷駅より徒歩約7分
竣工:1909年(1974年改修)
備考:国宝
公式HP:https://www.geihinkan.go.jp/akasaka/
■山の上ホテル

御茶ノ水駅と神保町駅の中間地点に建つ山の上ホテルは、1937年に宣教師・実業家であり建築家でもあったウィリアム・メレル・ヴォーリズによってデザインされたホテルです。
当時流行していたアール・デコ様式を見事に取り入れたホテルは、川端康成や三島由起夫、池波正太郎といった著名な文豪たちに愛されたことでも知られ、坂を上がった先に現れる優雅にして堂々とした姿は、見るものを虜にする気品を纏っています。
2019年には大規模な改修・補修工事がなされて建築当初のデザインが復元されていて、歴史の蓄積と深みを存分に堪能することができる貴重なホテル建築です。

詳細記事
・御茶ノ水「山の上ホテル」コーヒーパーラーヒルトップで至高のランチを
原設計:ウィリアム・メレル・ヴォーリズ
改修設計:アトリエアイ(1980年)、一粒社ヴォーリズ建築事務所(2019年)
所在地:東京都千代田区神田駿河台1-1
アクセス:御茶ノ水駅より徒歩約5分、神保町駅より徒歩約6分
竣工:1937年
備考:2024年の2月13日より建物の老朽化への対応のため長期休館
7.時を超えて愛される素敵な邸宅
■三鷹市山本有三記念館

山本有三記念館は、大正時代〜昭和にかけて活躍した小説家・劇作家・政治家の山本有三が暮らした邸宅を改修してつくられた記念館です。
この邸宅は1926年に建てられたもので、山本は1936年から戦争が終わりGHQに接収されるまでの10年間を過ごしました。
各部屋がそのまま展示室として使われていて、貴重な資料から山本の人となりや生活が伺い知れる充実した展示がとても魅力的な施設となっています。
様々な素材が組み合わさった大胆な建物デザインや精巧な家具や装飾も注目ポイントで、当時の建築流行の影響とともに大正時代という自由でモダンな時代の潮流も感じることができます。

詳細記事
・三鷹「山本有三記念館」大正末期に建てられた素敵な旧邸宅をレポート
所在地:東京都三鷹市下連雀2-12-27
アクセス:三鷹駅より徒歩約12分
竣工:1926年
営業時間:9:30~17:00
休館日:月曜
備考:三鷹市有形文化財
■旧前田家本邸

旧前田家本邸は、井の頭線の駒場東大前駅から程なく歩いたところに建つ旧前田家の邸宅です。
前田家といえば加賀百万石で知られる大名家の子孫であり、本郷に大名屋敷を構えていた名家であり、こちらの邸宅は前田家の16代当主であった前田利為氏の住まいとして1929年に洋館が、翌1930年に隣接する和館が建てられました。
東洋一といわれた邸宅は格調高い王朝風の装飾が多く見られますが、旧加賀藩当主らしい金箔の装飾や古九谷の調度品も織り込まれていて、和の要素が多くみられるのもとてもユニーク。スレンドグラスから降り注ぐ神秘的な光の演出や、随所に散りばめられたこだわりの装飾は、大開口部から降り注ぐ光と多種多様な照明によって豊かな表情を見せてくれます。
部屋ごとに素材やファブリックが全く異なるデザインとなっているのも面白く、扉をくぐる度に新しい世界に入り込むような、めくるめく空間体験が楽しめる、とっておきの邸宅建築です。

設計(洋館):塚本靖+高橋貞太郎
設計(和館):佐々木岩次郎+木村清兵衛(和室)
所在地:東京都目黒区駒場4-3
アクセス:駒場東大前駅より徒歩約8分
竣工:1929年(洋館)、1930年(和館)
備考:重要文化財
詳細記事
・駒場「旧前田家本邸」東洋一と呼ばれた素敵な大邸宅をレポート
■江戸東京たてもの園 前川國男自邸

続いて紹介する前川國男自邸は、近代建築の3巨匠ル・コルビュジェの弟子にして戦後の日本建築をリードしてきた建築家 前川國男氏が自ら設計した自邸です。
この住宅は1942年に品川区の上大崎に建築されたものですが、現在は小金井市にある「江戸東京たてもの園」の中に移築され、誰でも内部に入って見学することができます。
和風な佇まいの中に、シンメトリーの構成と三角屋根と格子窓の組み合わせから幾何学的で美しい図形が浮かび上がってくる建築には前川國男の美学が結晶化しています。
限られた敷地を最大限に生かし、合理的な中に豊かで人間的な空間を作り出すというのはモダニズムが掲げた理想でしたが、前川氏はこれを日本の住宅で見事に実現してます。
その他にも外部とのかかわりや光の取り入れ方など、ル・コルビュジェから受け継いだ近代建築のスピリットが存分に体感できる名建築です。

詳細レポート
・前川國男自邸に潜入!木造モダニズム建築の傑作ってどんな建築?【東京小金井市】
設計:前川國男
所在地:東京都品川区上大崎(現在は東京都小金井市桜町3-7-1江戸東京たてもの園内に移築)
アクセス:武蔵小金井駅よりバス5分
竣工:1942年
公式HP:https://www.tatemonoen.jp/
■荻外荘

荻外荘(てきがいそう)は、東京帝国大学医科大学教授であった入澤達吉が、1927年に自らの別邸として建てた邸宅です。
その後1937年には内閣総理大臣となった近衞文麿が入澤から譲受け、近衛の住まいとして政治的な会談や親交の舞台にもなりました。
戦後は増改築が行われたり、邸宅の半分が移築されたりしていましたが、周辺を含めた整備と建物の復元工事が行われ、2024年にリニューアルオープンしました。
建物の設計を手掛けたのは入澤の義弟であった建築家・建築史家の伊東忠太であり、日本の建築史に大きな影響を与えた伊東の稀にみる住宅建築としても貴重な建物となっています。
丁寧に復元された建物内では、精巧な装飾や陰影豊かな空間、見事な調度品など見所が満載で、周辺の環境を巧みに取り込んだ、豪華で豊かな邸宅を堪能できます。

尚、2025年には隈研吾建築都市設計事務所が手掛けた休憩所・案内所もオープンで、杉並の新たな注目スポットとなっることが期待されています。
詳細記事
・荻窪「荻外荘」歴史の舞台ともなった伊東忠太設計の素敵な邸宅をレポート
原設計:伊東忠太
所在地:東京都杉並区荻窪2-43-36
アクセス:荻窪駅より徒歩約15分
竣工:1927年
開館時間:10:00~17:00
休館日:水曜、年末年始
観覧料:一般300円、小・中学生150円
【見逃し厳禁!東京ホテル建築総まとめ】
東京で泊まりたい、建築が素敵なホテル・旅館についてのまとめも書いてます。