①設計者の梵寿綱(ぼんじゅこう)について
前回の記事で紹介しましたので詳しくは省きますが、梵寿綱は本名田中俊郎という1934年生まれの建築家です。
早稲田大学の建築学科卒業後、アメリカの美術大学で学び、1974年6月より梵寿綱を名乗り活動しています。
工芸家や職人など様々な専門能力を持つ仲間と共に「梵寿綱と仲間たち」を結成し、前回紹介した「斐醴祈:賢者の石」や早稲田の「ドラード和世陀」など個性的な建築を数多く残しています。
②小さいながらも細部に渡って唯一無二の装飾が施された建築
一見して何の変哲もなく見える格子状のパネルですが、近づいて見てみるとどれ一つとして同じ柄がないことが分ります。
決まった法則はないのか、何種類かのパターンのパネルが組み合わせれているだけでないかと見てみてもどれ一つとして同じパネルはありません。
ランダム、といってもコンピューターによって決められたランダム性のようなものも感じませんし、数学的な規則性からくる美しさを感じるわけではありません。
これは誰か人間が一つ一つ考えて創ったのだと気付いた時に、驚きと同時に怖さすら感じました。
意図していたのかどうかは分りませんが、こちらの福生市役所はピンクのかわいい市庁舎建築だったでも取り上げた福生市役所でもそうですが、正面の部材が分割されることで巨大な建築のスケールも分割され人間のサイズに近づきます。
また、外からは何階建てといったことも読み取れなくなり、水平スラブによって階ごとに積み重ねられた近代建築の呪縛から解放されます。
このダウンサイズした正方形を並べることによるスケールの変化は福生市庁舎と一緒で一つの建築のテクニックとして覚えておくとよいでしょう。
③内部も心おきなく堪能できる建築

外はギラギラしていますが中は女性の方でも気軽に利用できる雰囲気で池袋では実はちょっと有名なお店でもあります。

■店舗情報:美肉酒房 鮮Q
□席数
60席
□営業時間
月曜日~土曜日 18:00~26:00
日曜日 18:00~23:00(L.O22:00)
□HP
http://sen-q.net/

こちらは入り口。「鮮Q」は少し見えている1階の奥です。
最近2階のフロアにも拡大され、60席となりました。
エントランスにある金属とガラスの装飾も必見です。油断していると見逃してしまいますが、エレベータの扉などよく見ると細かい装飾がちりばめられており目が離せません。
また、建物の角には太陽やカエルの彫刻がさりげなく施されています。見つけるとものすごい主張しているように見えるのに、特に気にしないと見逃してしまうのは面白いですね。


④俗なる建築のパワー
お店の紹介みたいになってしまいましたが、最後に梵寿綱建築がもつ「俗っぽさ」について少し触れてみたいと思います。
例えば正面のステンドグラスをみてみても、一見きれいに並んでいるように見えて、何かの法則に沿って整然と並んでいるわけではなく、すべて違った柄なんです。
この梵寿綱建築から感じるのは、機械化されて製造された部品とは違った、とても人間くさくい、人間が考えて手を動かした結果できたものという人間賛歌の感覚です。
決してスマートではない、手あかがついて、これは人間がつくっているんだぞという主張をこの建築から感じます。
その見た目から「日本のガウディ」といわれることもある梵寿綱ですが、確かに表面上の装飾の多さがガウディに似ているというわけではありません。
今でこそ世界的に有名な建築であるサクラダファミリアも、建築開始から200年以上は職人による手作りで建設されていました。クレーンなどの機械もコンクリートなどの現代的な素材も一切使わずに人の手によって創られてきました(現在では様々な理由から現代技術や素材をつかった工法で建設が進められています。)
ガウディと大きく違うのはガウディが聖なるものへ向かったとしたら、梵寿綱氏は真逆の「俗」なるものへ向かった建築家というです。 神ではなく、俗なるもの。そしてそこから溢れる情念や人間臭さみたいなものが梵寿綱の魅力なのだと思います。
結果としてどちらも生命観に溢れ、時を重ねても人々を魅了し続ける建築になったことは興味深いことです。

■まとめ
・「鮮Q」は生肉や鉄板焼きがおいしいおススメのお店
・一見きれいに並んでいる装飾もよく見ると、すべて違っているオリジナルな装飾であることに驚く
・梵寿綱建築の「俗っぽさ」からくる人間臭さ、情念から感じる生命観を堪能しよう
この他にも都内にはまだまだ梵寿綱建築があるので今後も紹介していきたいと思います。


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■建築情報
名称:ヴェッセル:輝く器
設計者:梵寿綱
所在地:豊島区南池袋2丁目
最寄り駅:池袋駅東口徒歩10分、東池袋駅徒歩5分
竣工:1990年
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