梵寿綱が設計した都内の不思議な建築1【東京池袋】

東京建築巡り
東京建築トリップ第1回目は池袋の梵寿綱建築です。
いきなりちょっとマニアックなチョイスですが梵寿綱で「ぼん じゅこう」と読むこの建築家は建築好きの間ではかなり有名な建築家でもあります。その作風から「日本のガウディ」と呼ばれることもあります。
今日はそんな梵寿綱氏の建築の中から斐禮祈(ひらき):賢者の石を紹介します。
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ちなみにすぐ目と鼻の先には同じく梵寿綱氏の設計した「ヴェッセル:輝く器」がありますのでこちらの記事も興味があれば合わせてお読みください。
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1.設計した梵寿綱って何者?

まず「梵寿綱」という名前ですが、この名前は実はアーティストネームのようなもので、本名は田中俊郎さんという日本の建築家です。
梵寿綱氏は1934年に東京都で生まれ、早稲田大学の建築学科を卒業したどちらかというとエリートコースまっしぐらの出自を持っています。
ただしここからが少し変わっていて、早稲田大学を卒業後渡米し、シカゴ美術館附属美術大学で学んだ後アメリカとメキシコを周遊し帰国、1974年より梵寿綱を名乗りながら建築家・アーティストとしての活動を開始しました。

梵寿綱氏は自身が専門とする建築以外にも工芸家や彫刻家、職人など様々な仲間を集めて「梵寿綱と仲間たち」を結成し、「従来の建築」とは全く異なった建築を次々に創り出していきます。
ちなみにここでいう「従来の建築」とは近代化の中で世界を席巻した近代建築(モダニズム)の流れを汲んだ建築です。
梵寿綱氏の作品には今回紹介する斐禮祈(ひらき):賢者の石の他にも早稲田にあるドラード早稲田などがありますが、どれも通常の建築史からはどう位置付けていいか迷う個性的な作品ばかりです。

ドラード早稲田

近代以降の日本では、大学で西洋の建築史を中心とした建築学を修め、近代建築の文脈の中でつくるべき建築を模索し続けてきました。
それはある意味では正当な流れであり、その流れの中から世界でも通用する数多くの「建築家」が生み出されいきました。
そんな建築界の流れに反対した梵寿綱氏は、こうした王道の建築学の流れからは最も遠いところにいる建築家でした。


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「生命の讃歌 建築家 梵寿綱+羽深隆雄」(Amazonで見る)

2.斐禮祈(ひらき)に突入!独創的すぎる建築がスゴい

ではそんな梵寿綱氏の代表作の1つである建築を早速見ていきたいと思います。

池袋駅から15分くらい歩いたところにあるのが今回紹介する「斐禮祈(ひらき):賢者の石」という作品です。
いきなり強烈ですね。

まるで映画のセットのような造形にの建物ですが、1Fは居酒屋と酒屋の倉庫・事務所、上階は集合住宅となっておりもちろん入居者さんもいます。
この集合住宅部分は実際に賃貸サイトで入所募集していることもあり、タイミングさえ合えば実際に住むこともできます。
梵寿綱建築の作品はは集合住宅のが多くあることも特徴なのですが、これだけ個性的な建築家にも関わらず、一部の人が一部の時間しか使わない建築ではなく、人が実際に住まう建築を多く建てたことはとても興味深いです。

特徴はやはりその彫刻のように細かいところまで創りこまれた内外観です。
これでもかといった具合に装飾が施され、この物体が本当に建築として使われているのかと不思議な感じさえしますが、当然まだまだ現役で使われている建築です。

とても不思議な建築ですが、なぜこんな建築をつくったのかもう少し詳しく見ていきましょう。

3.どうしてこんな建築なのか?

梵寿綱氏はどうしてこんな不思議な建築をつくるのでしょうか。
その疑問の答えのヒントは20世紀以降、どんどん工業化・標準化して画一化していく建築にあります。
そういった工業化・標準化に反対するように梵氏は工芸家や彫刻家、職人さんなどの仲間と共に「梵寿綱と仲間たち」というグループを結成しています。
ここで梵寿綱氏らがまず反旗を翻したのは「インターナショナルスタイル」をはじめとするモダニズム(近代建築運動)です。

このインターナショナルスタイルが掲げたのは、世界中どこにでも建てられて、国や土地や人種や宗教や信条を乗り越える未来の建築です。
このインターナショナルスタイル自体の主張はとても魅力的なもので説得力のあるものでしたが、その結果生み出されたのは「ホワイトキューブ」といわれるようなシンプルで要素をそぎ落とした、ある意味どこにでもあり得るような建築達です。

この近代建築の3巨匠の一人といわれるミース・ファンデル・ローエ氏の言葉に「Less is more(少ないものはより豊かである)」があります。
「複雑化・多様化する社会において100人の人がいたら100通りの空間を創るのではなく、1つの大きくシンプルな(それでいて美しい)空間を創ればいい。あとはその中に入るものや人の状況や個性によってその空間を変えていく。そのほうが多様化して常に変化する社会に対応できる
これはとても説得力に溢れる言葉です。


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「誰にでもわかる20世紀建築の3大巨匠―ル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエ、F.L.ライト」(Amazonで見る)

(本人が明確にそういったわけではないので、あくまでも想像ではありますが)そんな言葉に対して「ふざけんじゃねぇ!!」と反対したのが梵寿綱という人です。
「そんなことを言ったって、モダニズムといって建てられたビルはどれも同じようなものばかりで、無表情で、まるで病院の無菌室にいるようじゃないか!!」と。

このインターナショナルスタイルの流れを汲む建築に対して梵寿綱氏は、もっとつくり手の思い入れや個性が滲み出てもいいんじゃないか、つくり手の情念が表れて、もっとおどろおどろしくて、「分からない」部分があっていいんじゃないかと考えたのではないでしょうか。

近代建築の巨匠が提示した建築はそれ単体では素晴らしい個性を持っていましたが、それらが標準化され世界中に同じような建築がコピーされてはそこから個性は消えてしまいます。
そんな同じようなビルが立ち並ぶ風景は、むしろディストピアではないか。そんな疑問が梵寿綱建築の根底にあるのだと思います。

4.梵寿綱建築のミカタ。意味を考えるより先に想像しよう

一方この建築を人に紹介するときに困るのは、この建築のデザインの意味や意図を説明してほしいといわれることです。正直この建築をいくら見ても、装飾の1つ1つの本当の意味は正直分かりません。
ただ、その装飾やデザインをみて「ここはこう思ってつくったのかな?」と想像する余地(楽しさ)がこの建築にはあります。

植物のようにも見えるところもあれば、動物の顔に見えるところもあったり、そのイメージソースが何なのかと想像しながら見るとかなり建築の見方も変わってきます。
特に友人などと複数の人で見学に行ったりすると実は皆感じ方や受け取り方が違っていたりしていて、私はそれだけで新たな発見でした。
それこそ他の無味無臭な商業ビルではできない楽しみがあります。

もう1つの梵寿綱建築の楽しみとしては、素材(工種)ごとのデザインの見比べです。
上述した通り梵寿綱建築は異なる工手の専門家や職人さんによってつくられているのですが、最初に大枠のイメージはありつつも、実際の工事の中では各つくり手のその場のイメージがかなりデザインに影響を与えています。
例えば外壁の左官と鉄扉は別々の人によって作られているのですが、デザインとしてはかなり共通点を見つけられます。現場が進む中でお互いの作り出したデザインに影響されながら最終的な形が決まっていったことを想像するととても興味深く見えます。

もう一つこの建築で注目したいのが「天井」「照明」です。
多くの梵寿綱建築で共通する見どころですが、梵寿綱建築では天井も一切手を抜きません。
普通の建築を見る際には天井はあまり意識しないのでついつい見逃してしまいがちですが、むしろ床よりも凝っていることも多いのが梵寿綱建築。訪れた際は上も見上げながらじっくり鑑賞するのがおすすめです。
「照明」に関しても特徴的で、梵寿綱建築では間接照明やステンドグラスなど光の入り方にも注目して見てみましょう。
間接照明は大体が人の腕によって支えられていたりして、人体が壁からにょきりと出ているのを見ると梵寿綱建築だなぁ、なんて思ったりします。
また、間接照明では必ず光に対して翳りが出るようにもなっていて、その妖しい輝きは空間に奥行きと生み出し、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」に出てくるような光と翳りの魅力を体現しています。


↑建築を学ぶ者の必読書ともいえる「陰翳礼讃」
とっても興味深く示唆に富んだ内容なので未読の方は是非読んでみてください(Amazonで見る)

いかがでしたでしょうか。
よく見てみるととっても魅力的で奥深い梵寿綱建築。
ちなみに目の前にはこちらの南池袋公園は都市のリビング。休日はここでのんびりピクニック」でも紹介した南池袋公園があります。
賢者の石を中心に不思議と注目建築が集まってきている南池袋ですので、近くを通りかかった際はぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

■まとめ
・現在も尚世界を取り巻く近代化の流れに疑問を呈し、独自の建築を実践した建築家が梵寿綱
・職人達を中心にして、工業化とは真逆の「手垢」を残した唯一無二のデザインを目指した
・よく分からないこと、解釈が分かれることを逆手にとって自分なりの面白さを想像しよう

■建築情報
名称:斐禮祈:賢者の石
設計者:梵寿綱
所在地:豊島区南池袋2丁目
最寄り駅:池袋駅東口徒歩10分、東池袋駅徒歩5分
竣工:1979年



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