今回は東京小菅にある旧小菅刑務所本館を訪れてきましたので、その模様をレポートしたいと思います。
1.矯正展でリニューアルされた旧小菅刑務所本館へ
東京都葛飾区小菅にある東京拘置所。
今回訪れたのはその敷地内に建つ旧小菅刑務所本館です。

場所は東武スカイツリーラインの小菅駅から歩いて約5分。
東京拘置所の中にあるためいつでも自由に見学できる建物ではありませんが、毎年秋に開催される矯正展で内部も含めた見学ができると聞きさっそく訪れてきました。
毎年行われる矯正展は子供から高齢者まで多くの人々で賑わう人気イベント。
自衛隊や警察などのブースを横目に敷地内を程なく進むと、今回の目的地である旧小菅刑務所本館がみえてきます。

普段は入れない場所に足を踏み入れるというだけでも期待が高まりますが、この建物の魅力はその見学の希少性だけではありません。
1929年に刑務所の庁舎として建てられた建物は、翼を広げた白鳥のような外観が特徴の大胆な造形が特徴です。
明治・大正時代に日本には様々な文化や学問が流入し、それらを積極的に取り入れ近代化が進みました。
もちろん刑務所も例外ではなく、この建物が建てられた昭和初期にはそれまでの監獄的な側面から近代的な刑務所へと大きな変化が起きた時期でもありました。

現在残されている旧小菅刑務所本館は、そんな近代日本の刑務所の顔となるべき建てられた当時最新鋭の建物。
設計を担当したのは、司法省営繕課の蒲原重雄です。
建物が完成したのは昭和初期ですが、造形には今見ても新鮮に感じられるという言葉では有り余るほど先鋭的です。

大胆な造形と幾何学的な装飾による知的なデザインが両立した建物は、遠目で見た時のシルエット、近づいてみた細部の両方を楽しめます。
ちなみに、2023年には大規模な改修が実施され、佐藤総合計画による保存・補修が行われているのも大きな注目ポイント。
佐藤総合計画といえばこのブログでも過去に北区立図書館や勝海舟記念館をレポートしていますが、近代建築の改修が実に巧みで元の建物のよさを引き出しつつ現代の建物として活用できる改修デザインがなされています。
2.白鳥のような外観と、天へ伸びる監視塔
旧小菅刑務所本館の一番分かりやすい特徴は、左右へ大きく伸びる両翼と天に伸びる監視塔がつくりだす外観です。
刑務所はその性格から水平に伸びる房と、その房を監視する塔が重要になってきます。
そう考えると左右に広がる建物と、垂直に立ち上がる塔による二つの方向が組み合わさるデザインの巧みさを感じられます。

特に監視塔は刑務所の施設として必要な実用的設備ですが、この建物では全体のデザインを決める重要な要素にもなっています。
機能のために設けられた部分を隠すのではなく、むしろ建物の個性として成立させているところが面白いです。
目を引くのは大きな形だけではありません。
各所には幾何学的な装飾が取り入れられ、直線や角を生かした端正な表情がつくられています。

装飾性はありますが、派手さを競うような印象もないですが細かな意匠が一定の秩序に沿って配置されているため、建物全体には引き締まった知的な雰囲気があります。
刑務所建築に必要だった実用性が、そのまま独自の造形へとつながりつつ、大胆なシルエットと抑制された装飾が同じ建物の中で無理なく共存しているのは旧小菅刑務所本館ならではの見どころです。

外観でもう一つ見逃さないのは明治時代に建てられた東京集治監の監門です。
東京集治監は煉瓦・石造りの建物で1923年の関東大震災で倒壊しこの旧小菅刑務所が建てられることになりますが、建替えの際にこちらの監門 が保存されました。
旧建物の遺構で開けられることがないため、「開かずの門」呼ばれている、歴史遺構でもあります。
3.様々な材料が幾何学形態により統制される内部が面白い
矯正展では、外観を眺めるだけでなく建物の内部にも入ることができました。
外観も特徴的でしたが、内部は幾何学的なデザインと、光と影の演出が随所に散りばめられています。

2023年の改修に合わせて内部の内装の復元が行われていますが、内部は実に様々な素材が使い分けられています。

そして素材の切り替え部に使われている巾木や見切りは幾何学的な形態で納められているので、これだけの材料をつかいながらと全体的にまとまってみえるのがユニークです。

受刑者も看守も様々な人の集まりですが、それを統べるのは個人の感覚や気持ちではなく幾何学という知的で普遍的なルールであると考えるとこの建築のデザインが腑に落ちるのですが、考えすぎでしょうか。
内部見学の面白さは建物を単なる鑑賞物ではなく、人が働き、移動するためにつくられた場所として感じられることです。

特に昭和初期の刑務所庁舎という普段見ることのない施設なので、そこに潜む機能性や必然性を考えながら見学するのが楽しいです。
もう一つ内部で印象的だったのが光の使い方です。
刑務所庁舎はどうしても閉鎖的な施設になりがちですが、この建物では光と影の表情がとても豊かにデザインされています。

例えばふと見上げた天窓からは自然光が降り注ぎ、天井に深い陰影を与えています。
壁に目をやるとリズミカルに並ぶスリット状の開口が内装の表情をより豊かにしています。

閉じた施設にせざるを得ない建築の中で、こうした開口のデザインによって空間的な広がりや時間や天候による変化が建物内に反映されているのが素敵です。
素敵な建築をたっぷりと堪能して、この日の建築巡りも大満足のものとなりました。
公開日は限られますが、とても素敵な建築なので皆さんも機会があれば是非訪れてみてくださいね。
旧小菅刑務所本館
設計:蒲原重雄/司法省営繕課
改修設計:佐藤総合計画
所在地:東京都葛飾区小菅1-35-1
アクセス:小菅駅より徒歩約5分
竣工:1929年
備考:国重要文化財




