今回は東京上野に建築さんぽに行ってきましたので、上野駅周辺の建築見学にオススメな建築を紹介したいと思います。
上野駅周辺は上野動物園や美術館などで訪れたことのある人も多いと思いますが、建築も新旧合わせて様々な作品が見られる建築パワースポットでもあるのです。
いったいどんな建築と出会えるのか、早速見ていきましょう。
1.JR上野駅
まず初めに紹介するJR上野駅は、都内有数のターミナル駅です。
現在の上野駅は関東大震災で焼失した初代の駅舎に代わって、1932年の当時としては先進的な鉄筋コンクリート造で建設されました。
乗車口と降車口を上下に分離した立体的な構成が最大の特長で、始発・着駅として旅の趣を演出しつつ、大量の人・車・電車を効率的に捌くよう考えられています。
リニューアルを繰り返しながらも当時の面影が残されたところも多くあり、見どころ満載の正に東京を代表する駅舎となっています。
2020年には公園口改札が100m北側の新駅舎へ移設され、新改札口やロータリーが新設されて新たな上野駅の顔ができたのにも注目です。
設計:鉄道省
所在地:東京都台東区上野7-1
竣工:1932年
備考:第4回台東区景観まちづくり賞
2.上野東照宮
上野公園内にある上野東照宮は徳川家康公を祀りする神社です。
東照宮といえば日光東照宮が有名ですが、この上野の東照宮は江戸城の鬼門の方角を守護する要として建設されました。
現在残っている社殿は1651年に三代将軍・徳川家光公の時に改修されたもので、震災や戦火を逃れて現存している貴重な建築です。
拝殿では多くが剥がれつつも、全面に金箔を塗った「金色堂」の名残をみることができます。
また、周辺には寛永寺五重の塔(1639年)や厳有院霊廟勅額門(1679年)など江戸時代に建設された建物がいくつもあり、建築見学の際に時間があれば合わせて見ておきたいですね。
設計:木原義久+鈴木長恒
所在地:東京都台東区上野公園
アクセス:上野駅より徒歩約7分
竣工:1651年
拝観料:
大人 500円
小学生 200円
公式HP:https://www.uenotoshogu.com/index.html
ちなみに2022年には、中村拓志(NAP建築設計事務所)によってデザインされた神符授与所と静心所が完成しました。
こちらの静心所では倒木の恐れがある為切り倒されたイチョウの木をモチーフにした3次元の軒下空間で参拝前の心を落ち着けることができ、遥か昔から続く東照宮の歴史と今ここの現代の地点を結ぶ素敵な建築を体験できます。
拝観料(一般500円)がかかりますが、授与所から先は人もかなり少ないので、訪れた際には是非中まで入ってみることをおススメします。
設計:中村拓志/NAP建築設計事務所
アクセス:上野駅より徒歩約7分
竣工:2022年
3.国立西洋美術館
国立西洋美術館は、近代建築の3巨匠ともいわれるフランスの建築家ル・コルビュジエによって設計され、2016年に世界遺産に登録されたことでも話題となりました。
歴史的な大変換ともいえるル・コルビュジエによる近代建築理論が見事に結晶していて、例えばエントランスの「ピロティ」は必見です。
初期の計画からは大きく変更されてしまいましたが、遠目からでは分かりにくくなっていますが、近づいてみると建物の内外の境界が打ち消されて広場と街と一体になっている空間が体験できます。
関連記事
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設計者:ル・コルビュジエ+前川國男/前川建築設計事務所
所在地:東京都台東区上野公園
アクセス:上野駅より徒歩約2分
竣工:1959年
休館日:月曜
公式HP:https://www.nmwa.go.jp/jp/index.html
4.東京文化会館
東京文化会館は、西洋美術館の向かいに建つ音楽ホールです。
設計はコルビュジエの弟子である前川國男によって行われ、日本で初めて組織的な音響設計がなされたこともあり世界的に見ても評価の高い名ホールとなりました。
後期のコルビュジエの影響を受けたコンクリートの大庇の下にガラスのエントランスがある構成は、エントランスホールが公園と一体となるように意図されています。
従来の建築ように権威性を持った玄関ではなく、誰でも気軽に入れる市民ホールというのは当時としては画期的でした。注目は床のタイルで、落ち葉のようなタイル模様が建物内も上野公園の一部であるように錯覚させます。
設計:前川國男/前川建築設計事務所
所在地:東京都台東区上野公園5-45
アクセス:上野駅より徒歩約1分
竣工:1961年
備考:第3回BCS賞
公式HP:https://www.t-bunka.jp/
5.国立科学博物館
国立科学博物館は「カハク」の愛称でも親しまれ、資料点数400万点を超す日本最大級の博物館です。
現在の建物は関東大震災により全焼した為に建て替えられた2代目で、当時文部省にいた小倉強の設計によって再建されました。
実はこの建物上から見ると飛行機の形としていて、新古典主義の堂々とした外観をしながらも、実は広がる両翼やコックピットなどの遊び心が面白い建築でもあります。
また、両翼の先端の馬蹄形を利用した階段や大吹き抜けのアーチ屋根なども見どころです。
設計:小倉強
所在地:東京都台東区上野公園7
アクセス:上野駅より徒歩約5分
竣工:1931年
休館日:月曜
公式HP:https://www.kahaku.go.jp/
6.日本学士院会館
日本学士院会館は、国立博物館東洋館の設計者でもある谷口吉郎氏の設計による会議場、図書室、会議室等からなる会館です。
シンプルながら、どこかの他の様式を模造するのではなく、素材の持つ表情と単純な形の組み合わせによって美しいプロポーションが生み出されています。
まさに知性と品格を併せ持った碩学の府にふさわしい建築です。
設計:谷口吉郎
所在地:東京都台東区上野公園
アクセス:上野駅より徒歩約5分
竣工:1974年
備考:第16回BCS賞
7.旧東京音楽学校奏楽堂
旧東京音楽学校奏楽堂は、1887年に開校した東京美術学校の本館として建設された木造のコンサートホールです。
日本における初めての本格的な音楽ホールとされていて、一時は取り壊しの危機になりましたが、その歴史的な価値や熱心な保存運動が実り移築・保存されています。
木造でありながら内部のヴォールト天井や、壁面や床下には藁やおがくずを入れて遮音性能を高めるなど試行錯誤の末の様々な工夫がされています。
設計:山口半六+久留正道
所在地:東京都台東区上野公園8-43
アクセス:上野駅より徒歩約7分
竣工:1890年
8.黒田記念館
黒田記念館は、後述する動物園博物館前駅の目の前に建ち、元々は洋画家・黒田清輝の遺産による美術館・美術研究所として建設されました。
設計は同じく当時の東京美術学校で教授を務めていた岡田信一郎が行いました。
岡田は、吉田五十八、今和次郎、吉村順三ら数々の名建築家を育てたことでも知られる建築家ですが、黒田記念館はそんな岡田の代表作ともいえる建築です。
褐色のスクラッチタイルと古典主義のオーダー柱が控え目ながら上野公園の木々と調和しています。
耐震補強とバリアフリー対応の為休館後、2013年にリニューアルオープンしていて、交差点側には上島珈琲店 黒田記念館店が入っています。座席は2階にもあるので建築巡りの合間の休憩にもピッタリのスポットとなっています。
設計:岡田信一郎
所在地:東京都台東区上野公園12
アクセス:上野駅より徒歩約10分
竣工:1928年(2013年改修)
営業時間:
黒田記念館 9:30~17:00
上島珈琲店 7:30~19:00
休館日(黒田記念館):月曜
公式HP:https://www.tobunken.go.jp/kuroda/
9.動物園博物館前駅
博物館動物園駅は、京成電鉄の日暮里駅~京成上野駅の中間に位置する駅として、1993年に開業した駅舎です。
建設敷地は皇室で代々引き継がれてきた「世伝御料地」であることから「品位に欠けるものであってはならない」と、まるで小さな国会議事堂のような上品な駅舎が完成しました。
2018年に東京都選定歴史的建造物に選定されたことを期に補修工事が行われ、東京藝術大学の教授でもある日比野克彦氏によってデザインされた扉をはじめ、これからの建築としての新たなスタートが切られています。
2018年からは年に数日間だけ内部の一般公開が始っているので、内部公開された際には必見です。
内部の見学の様子はこちらの記事でもレポートしていますので、興味のある方は是非併せてご覧ください。
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・博物館動物園駅に潜入!一般公開された幻の駅見学レポート【東京上野】
設計:中川俊二
所在地:東京都台東区上野公園13
アクセス:上野駅より徒歩約10分
竣工:1931年
10.東京国立博物館
東京国立博物館は、上野公園から道路一本挟んだ向かい側に建つ博物館です。
「トーハク」の愛称で親しまれ、物凄い数の国宝や重要文化財が保存・展示されていることで知られる博物館ですが、その建築群も国宝級です。
例えば本館は銀座和光の設計でも知られる建築家渡辺仁によるもので帝冠様式の代表作と言われています。
東京国立博物館がすごいのは各年代を代表する建築家による建築が綺麗に残っていることです。
本館の他にも表慶館(片山東熊+高山幸次郎/1908年)、東洋館(谷口吉郎/1968年)、法隆寺宝物殿(谷口吉生/1999年)と明治、昭和、平成の名建築が一挙に見れる建築史のテーマパークとなっています。
表慶館は、東京国立博物館のには、5つの建物の中で最も古い建物で、美しいドーム屋根が印象的なネオ・バロック様式の建物です。
設計を手掛けた片山東熊は、以前レポートした迎賓館赤坂離宮等の建築を手掛けた宮廷建築家。
天に引き込まれるようなドーム下の空間や、優美な曲線を描く階段、陰影豊かな表情など建築的な見どころが満載の建物となっています。
こちらの東洋館は、その名の通り東洋の美術や工芸品を展示する施設です。
昭和を代表する建築家の谷口吉郎氏が設計を手掛けた建物は、コンクリートを使って日本の伝統建築とモダニズム建築を見事に融合させています。
法隆寺宝物館は敷地の西側の奥に建てられた展示館で、谷口吉郎氏の息子である建築家の谷口吉生氏が設計を手掛けています。
計算し尽くされたプロポーション、こだわり抜かれたディテール、自然を映す鏡としての水盤など、この建築を見ていると自然と人工物の双方に対する畏敬の念を感じます。
設計:片山東熊+高山幸次郎(表慶館)、渡辺仁+宮内庁内匠寮(本館)、谷口吉郎(東洋館)、谷口吉生(法隆寺宝物殿)
所在地:東京都台東区上野公園13-9
アクセス:上野駅より徒歩約7分
竣工:1908年(表慶館)、1937年(本館)、1968年(東洋館)、1999年(法隆寺宝物殿)
開館時間:9:30~17:00
休館日:月曜
公式HP:https://www.tnm.jp/
11.旧因州池田屋敷表門
旧因州池田屋敷表門は、東京国立博物館の敷地の道路際に建つ旧鳥取藩の池田家江戸屋敷の正門です。
元々は丸の内大名小路にあった門ですが、戦後の1954年に現在地に移築されました。
入母屋造りの屋根の下、左右に向唐破風造の番所が設置された門は、「黒門」とも呼ばれ、現存する大名屋敷の表門としては東京大学の赤門と並ぶ貴重な建築遺産となっています。
所在地:東京都台東区上野公園13-9
アクセス:上野駅より徒歩約7分
竣工:江戸時代後期(1954年移築)
備考:重要文化財
12.日本芸術院会館
日本芸術院会館は、上野公園内に建つ日本芸術院の施設で、会議等の他に収蔵品の一般展示なども行っています。
設計したのは日本の数寄屋建築と近代建築の融合を模索した吉田五十八。
平屋建てで内部の中庭を囲む構成は、時代を平安朝時代まで遡って日本の伝統と現代の建築を融合させています。
外観はシンプルですが、簡素な中に優雅さ気品が感じられ、決して目立ちはしないけれど独特な存在感を放っています。
設計:吉田五十八
所在地:東京都台東区上野公園1-30
アクセス:上野駅より徒歩約3分
竣工:1958年
公式HP:https://www.geijutuin.go.jp/
13.東京都美術館
東京都美術館は、東京文化会館と同じく、日本の近代建築史を代表する建築家である前川國男による設計の美術館です。
上野公園の高さ制限と美術館の必要容量の両方の要件をクリアする為に地上部分に人工地盤を設けて建物の多くを地下に埋めた構成が特徴的です。
高低差を利用した人工地盤の広場や、日本の気候に合わせて進化させた褐色の打ち込みタイルなど、60年代後半から70年代前半にかけて前川國男が今までに実験してきた工夫が結実している建築です。
設計:前川國男/前川建築設計事務所
所在地:東京都台東区上野公園8-36
アクセス:上野駅より徒歩約5分
竣工:1975年
備考:第17回BCS賞
開館時間:9:30~17:30
休館日:第1・第3月曜
備考:第17回BCS賞
公式HP:https://www.tobikan.jp/index.html
14.上野警察署動物園前派出所
動物園前派出所は、その名の通り上野動物園の目の前に建つ交番です。
杜を抽象化したような4本の柱兼屋根の様なものが建物を囲っているのが特徴です。
現在杜をイメージというと、分りやすく木のルーバーや木材を組み合わせたものになりそうですが、シルバーに輝く金属を使っているあたりが1990年という時代を感じさせていいですね。
設計:黒川哲郎+デザインリーグ
所在地:東京都台東区上野公園8-4
アクセス:上野駅より徒歩約5分
竣工:1990年
15.東京芸術大学
東京芸術大学の前身である東京美術学校ができたのが1887年であり、構内には1800年代に建てられた建築から現代建築まで様々な時代の建築が残っています。
一般的に一番見学しやすいのは東京芸術大学美術館で、東京芸術大学の教授でもある六角鬼丈氏によって設計されました。
通常美術館は周りからは閉鎖的になりがちですが、収蔵スペースをコンパクトにまとめて4周に開くオープンな美術館は東京芸術大学とその教授が連携したからこそできる珍しい美術館です。
設計:六角鬼丈+東京芸術大学施設課+日本設計
所在地:東京都台東区上野公園12-49
アクセス:上野駅より徒歩約10分
竣工:1999年
備考:第42回BCS賞
その他にも岡田新一による奏楽堂(1998年)、天野太郎による絵画棟(1970年)や図書館(1965年)、金沢庸治による正木記念館(1935年)、岡田信一郎による東京美術学校陳列館(1929年)、林忠恕による赤レンガ1号館(1980年)などなど数々の建築が残っています。
16.国際子ども図書館
国際子ども図書館は、1906年に建てられた旧帝国図書館を、安藤忠雄氏による改修を経て国際子ども図書館としてリニューアルした図書館です。
100年以上前に建設された時も日露戦争による影響から未完成の部分がありましたが、安藤氏はここにガラスの箱を貫入させることで新たな建築として生まれ変わらせました。
はるか昔の建築の壁面が地層の様に表れて、新旧がぶつかり合う空間は思わず息を呑んでしまいます。
まるで古さと新しさが融合する上野という街そのものを象徴しているかのような建築に注目です。
ちなみに1階に併設されたカフェも、手軽な値段でランチやおやつなどを楽しめるのでとってもおススメですよ。
詳細記事
・上野「国際子ども図書館」新旧が融合した素敵な建築をレポート
設計:久留正道+真水英夫
改修設計:安藤忠雄/安藤忠雄建築研究所+日建設計
所在地:東京都台東区上野公園12-49
アクセス:上野駅より徒歩約10分
竣工:1906年(2002年改修)
備考:第45回BCS賞
開館時間:9:30~17:00
休館日:月曜、祝日
公式HP:https://www.kodomo.go.jp/
17.上野動物園
上野動物園(東京都恩賜上野動物園)は、1882年に開園した日本で最も古い動物園ですが、建築的な見どころも満載の動物園です。
例えば東京都美術館の裏手にある旧正門(臨時門)は、1933年に建てられたもの。昭和初期らしいスクラッチタイルの外観が可愛らしい門は、現役で使われています。
旧正門からすぐの場所に建つ閑々亭は、江戸時代初期に建てられた茶室で、現在の建物は明治初期の1878年に再建されたものです。
動物園の端にひっそりと佇んでいますが、再建からほどなく開園した当初の上野動物公園では来園客の休憩所としても使われていたという歴史ある建築です。
上野動物公園でもうひとつ見逃せない建築が、こちらの売店バードソングです。
グラデーショナルに変化する軽やかな外装と、白い庇の下のオープンな空間が特徴の建物は、動物園の雑多な環境に溶け込みつつ、美しいワンポイントの風景を動物園の一角につくりだしています。
設計:象設計集団(バードソング)
所在地:東京都台東区上野公園9-83
アクセス:上野駅より徒歩約5分
竣工:江戸時代初期/1878年再建(閑々亭)、1933年(旧正門)、2007年(バードソング)
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