川崎「電脳九龍城」惜しまれつつ閉店した伝説的建築をレポート

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皆さんは川崎の九龍城ともいわれる「ウェアハウス川崎」はご存知でしょうか。
もしかしたら九龍城という名前だけは聞いたことがある、という方は多いのではないでしょうか。

「ウェアハウス川崎」は神奈川県にあるゲームセンターや漫画喫茶などが複合施設ですが、この建築は香港にかつてあった九龍城をモチーフにつくられています。
モチーフといってもそのつくり込みとこだわりはハンパなく、香港から家庭用のゴミを輸入して装飾の一部に使うほど。凄すぎる!と一部の人の間では知る人ぞ知るスポットとして有名な建築でした。
しかしこの伝説的ともいえる建築は2019年11月17日をもって惜しくも閉店となることが決定されました。
追記:2019年11月17日に実際に閉店となりました

全国どこを探しても出会えないこの施設、なるなる前に体験しなければ!
そしてこの建築が無くなった後もかつてこの建築があったということを残さねば!ということでこの度潜入してきましたので建築的な視点も交えながらご紹介したいと思います。

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①そもそも九龍城って?

潜入レポートに入る前に九龍城についてご存じない方もいると思いますので、簡単に解説します。
九龍城はかつて香港の九龍にあり、1993年に解体・消滅したひとつの「都市」です。正確には九龍城砦(くーろんじょうさい)といいますが、「砦」をとって九龍城と呼ばれることもあります。
カッコつきで「都市」としたのは、この九龍城は正式に計画された都市とは違って、歴史的経緯の中でいわば自然増殖的に超高密度の立体建築が構築された特殊な都市だからです。

九龍城砦は1993年に取り壊されて現在は公園となっていますが、最終的には約26000㎡の面積の中に5万人の人々が暮らすまでになり、その時の人口密度は約190万人/km2ともいわれています。
東京の山の手線の内側の面積が63~65km2ですので、日本のすべての人が山手線の中に集結して住んでいるようなイメージです。平面だけでいえば畳1枚に対して3人分の計算になりますが、これらの人が立体的な建築をつくって住んでいたのが九龍城砦です。

これだけの人が暮らしていますので、当然その中には学校や病院、食品工場から理髪店にいたるまでの日常生活に必要なあらゆる店が合法・非合法問わず存在し、「一度入ったら出られない」巨大な迷宮・魔窟のような存在となりました。
その常識を超え、神秘的ともいえる都市の姿は、一度見たら最後。九龍城が取り壊された後も皆の記憶の中に留まり続ける魔力のようなものがあります。

そして九龍城砦をモチーフにしてつくられたのが電脳九龍城砦の異名を持つ「ウェアハウス川崎」です。しかもそのこだわりがハンパではありません。
細部まで事細かにつくり込まれた川崎の魔窟がウェアハウス川崎なのです。

②川崎の九龍城砦 ウェアハウス川崎ってどんな建築?

ウェアハウス川崎は正式名称を「アミューズメントパークウェアハウス川崎店」といい、JR川崎駅から徒歩10分程度にある複合型のアミューズメント施設です。
1階がエントランスと駐車場や駐輪場、2階から3階がゲームセンターなどのアミューズ施設、4階がビリヤード・ダーツ、5階がインターネットカフェとなっています。

入場料はありませんが、特徴としてこの建物は18歳未満の入店が完全不可の施設となっています。
これはこの施設が「大人のためのアミューズメントパーク」というをコンセプトを大事にしているからだそうです。

川崎といえば少し前に臨海部の工場地帯を中心にカオスな街 川崎をルポタージュした「ルポ 川崎」が話題となりましたが、日本に九龍城をコンセプトにした建物をつくるのにこれほど適した場所はありません。

ちなみに店舗1階は障害者専用・EV充電用各1台 軽専用3台を含む48台の駐車場、と建物奥には102台立体駐車場があり、車での来店も可能です。

建物側面からは駐輪場への入り口も完備されています。少しわかりずらいですが、駐輪場からもかすかに内部の明かりが漏れているのがグッドです。

では早速この建築に潜入してみたいと思います。

③潜入レポ/外部編

川崎駅から南に進んで行くと10分も歩かないないうちにタダ事ではない外観の建物が現れます。
こちらは建物外観となりますが、一目見ただけでただ事ではない雰囲気を感じ一気にその世界観に引き込まれます。
正面には建物から突き出たパイプが走っているのですが、つくり物といった感じは全くなく、見事な塗装が施されています。

建物の正面の外壁には「超娯楽魔窟煩悩覚醒 贅沢三昧」「一日五食 電脳九龍城二升五合」…。よくよく考えると笑ってしまうような、しかし高揚感を上げまくる文字が刻まれています。

側面を見てみると建物の構成がよくわかります。
隣のビルと比較すると建物の高さは約40m程でしょうか。
道路側の部分が主にアミューズメント施設、裏側が立体駐車場になっているのが分ります。横から見ると最上部の部分は建物ではなく看板の一部であることが分ります。

この建築は元々家電量販店の「コジマ」だったそうなので、もともとガラス張りだったものを改修時にふさいだのでしょう。それにしても見事な素材感です。

少しわかりずらいですが、側面に「▼」印が見えますがこれは火災などがあった時に消防の人が進入する非常用進入口のマークです。
「ここは割って入れるから、ここから突入できます」ということを示すもので3階以上の階に付けられるものです。個数を数えてみると、3階・4階・5階・6階・・・やはり6階までしかありません。
こんなところも建物を見る上でのポイントだったりします。

最後にエントランスです。重々しい扉が開くと、「電脳九龍城」のネオンが光っています。
そして奥に続く2つ目の扉に進みます。これは風除室といって外の空気が流入したり、風の吹きつけを緩める為に建物の入口部分に設けられるのもでコジマ時代の名残でしょう。

ここでは異世界の入り口にいざなう緩衝帯としての役割を担っているのが見事です。
「ここに足を踏み入れたら二度と戻れないぞ…」と。

では早速内部に突撃してみましょう。

④潜入レポ/内部編1-地上階

建物に入り薄暗い道を進んでいくと上階に行くためのエスカレータとエレベータに行きつきます。
壁一面に書かれる日本語とも中国語ともいえない謎の文字や、建物の中なのにある窓が不安と高揚を煽ります。
ちなみに内部はもともとは写真撮影不可でしたが、この記事を書いている時点では携帯や手持ちカメラでの簡易な撮影はOKとのことでした。

上の写真奥に見えるのが駐車場からの入り口です。
こちらもメインのエントランスと同じく、まるで地獄の入口のような入口は飛び石を渡っての入場です。
やはりここは日常の世界と異なった異世界への入り口だったのです。ここは勇気と覚悟を持って「こちらの世界」から「あちらの世界」へ足を踏み入れます。

入口から歩みを進めると、向こう側に少し明るいスペースが見えてきます。
ここがエレベータホールとエスカレータになっており、上階に進むことができます。

「砦城龍九脳電」のネオンが妖しく光っています…

⑤潜入レポ/内部編2-上階

まずは2階に上がるとそこはもう九龍城の空間が。
もともとあった吹き抜けを利用した2層分の空間に九龍城の面影が広がります。
看板がいそんな方向に犇き、住戸からは誰かが顔を出し雑多な生活感がそこにはあります。

3階から下の吹き抜けを見渡すことも出来き、立体都市さながらの光景を目の当たりにします。
洗濯物が干してあったり、怪しげな精肉店があったり、ここは日本なのか…とその非日常感に没入させられます。

ふと見上げると、そこに干してあるのは女性物の真っ赤なパンツとブラジャー
このあたりの遊び心は素敵ですね。

こちらはエレベータ。階表示のランプからきちんと稼働しているのが伺えますが、怖くて乗れないです。
写真の通り怪しげなチラシがそこかしこに貼ってあります。

奥に進むと2階はクレーンゲームをはじめとするゲームコーナーが広がります。
一気に広がる明るい空間で懐かしのゲームをプレイしたり、UFOキャッチャーをしたりとアミューズメント施設としても普通に楽しめました。
エスカレータを上がったところにあるザ・九龍ワールドとゲームコーナーは割と分れているので、動線としてはゲームをやるのに邪魔にならないような施設配置になっているのにもさりげない工夫が垣間見えます。

3階はメダルゲームを中心としたコーナーとなっており、大人な雰囲気のゲームセンターといった雰囲気を纏っています。
最近では明るく内装も白を基調としたゲームセンターも多くなってきていますが、こういった暗くて艶っぽいゲームセンターも魅力的ですね。

⑥潜入レポ/内部編3-設備など

この電脳九龍城は設備もすごい。
こちらは男性用トイレですが、トイレに至るまでその世界観がつくり込まれていることに驚愕します。
このシミは運営者によって意図されたものなのか、自然にできたものなのか…その境界が限りなく曖昧に感じられるこのトイレの存在は大きいです。

ちなみに女性用トイレは男性ほどの禍々しさは内容で、女性側からは羨ましがられました。
下の写真はスタッフルームの扉と奥は人荷用のエレベータです。一般の利用者が使えないことは明示されていますが、フェイクと本物のサインが混在しているのが面白かったです。

こちらは天井の配管ですが、フェイクのパイプも混ぜながら無駄にルートを回しているあたりが面白いです。一見してどれが本物の配線か分りません。

この建物はもともとあった建物を改装してつくられましたが、天井裏を余すところなく見せられるのはいいですが、そこに九龍城的な乱雑さを求められるのは新しいです。
ゲームセンターということで、大量の電源を使用していると思うのですが、いざとなったら天井を介して自由に配線できるのは心強いですね 笑

消火用水栓も完全に建物に紛れていました。赤いランプもこの建物の内装にはマッチしているのが面白く、恐らく私以外には誰もこの水栓の存在を気に留めている人はいませんでした。

⑦魔窟からの脱出

最後まで施設を満喫したところで、日常の世界に帰ります。
御出口はこちらという雰囲気満載のサインに導かれて、出口へと向かいます。

最後に建物外にでる扉と外の風景が見えたときには、少し安心すると同時に寂しさも感じます。
一度体験してしまっては何か心を掴まれる、そんな魔力がこの建築にはあります。
これは非日常の憧れ、だけではなく、すっかり画一化されて、無菌室の様に綺麗になってしまった街への寂しさなのかもしれません。
何かもっとドロドロしていて、人間臭くもエネルギッシュなパワーを感じたいという衝動

以前、日本のガウディといわれた梵寿綱氏の建築を取り上げた際には「俗なるもの」への聖性について考察しました。
画一化・規格化されたものではなく、もっとつくり手の思い入れや個性、情念が表れてたものへの問いかけ。
梵寿綱氏の建築はおどろおどろしくも人間らしさを感じる人間賛歌の建築であり、「分らなさ」の中に想像力を働かせる余地のある建築でした。

梵寿綱が設計した不思議な建築1【東京池袋】
下の写真は池袋の「斐禮祈:賢者の石」(設計:梵寿綱)

ウェアハウス川崎は、現代において失われつつある、しかし人間にとって必要な感覚や情念を思い起こさせてくれるスゴすぎる建築でした。

アミューズメントパークウェアハウス川崎店
所在地:神奈川県川崎市川崎区日進町3-7
アクセス:川崎駅より徒歩約10分
竣工:2005年改修
備考:2020年解体済※現存せず
HP: https://www.warehousenet.jp/store/storeinfo.php?id=210


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