今日は北千住に建つ名建築大橋眼科医院について紹介したいと思います。
大橋眼科といえはば建築好きの間では昔から有名な建築で私も大好きな建築でしたが、残念ながら2021年の春に閉館してしまいました。今回北千住の建築巡りをするに当たって改めてこの建築を訪れてきましたので、その模様をレポートしたいと思います。
それでは早速、魅力満載の大橋眼科の世界にトリップしていきましょう!
【自己紹介】
・建築好きのやま菜と申します。
・今までに約5000件の建築を巡った建築トリッパー
・今日も素敵建築を求めて東奔西走
【この記事で分かること】
・大橋眼科医院を実際に訪れたレポートを写真と文字で解説
・大橋眼科医院の基本情報やアクセス方法、訪れる際のポイント
・大橋眼科医院の建築的な見どころや注目ポイント
1.北千住に建つ名物建築、大橋眼科がスゴ過ぎる!
北千住駅の西口を降りて、メインストリートである北千住駅前通りをほどなく歩いたところにあるのが今回紹介する大橋眼科医院です。
旧日光街道の宿場町として古くから発展してきた北千住もだいぶ新しい店が増えてきたな、などと思いながらアーケードを進んでいると突如見えてくるのは中世ヨーロッパ建築を思わせるレトロな外観の建物。
2021年の春まで現役の街医者として親しまれてきたこの建物の歴史は、大正初期の1917年にまで遡ることができます。
この建物が建てられた大正時代は欧米諸国から先進的な西洋医学の知識や技術がどんどんと伝わってきた時代。そんな先進的な医学の象徴として、各地の病院や町医者は洋風建築のイメージが好んで使われていました。
この大橋眼科もそうした西洋建築の要素を取り入れたデザインの医院で、1980年に老朽化などの理由で取り壊されるまで、80年以上に渡って地域の人たちに親しまれてきました。
現代見られるこの建物は2代目の大橋眼科で、1982年に元々の建物のイメージを引き継ぐ形で再建されました。
再建に当たっては、当時の経営者であった鈴木英夫氏が中心となってこの建物を完成させたそうです。また、建物に再建に当たっては鈴木氏が長年にわたって集めたという明治期以降の各地の建物のパーツを組み合わせてデザインに取り入れられました。
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2.今は無き建築達の意思を継ぐ、ブリコラージュ建築に注目!
今一度、大橋眼科の建物を見てみると、小さな敷地の中にこれでもかというくらい精巧で濃密な要素が溢れていることに感動します。
先ほど触れた通り、この建物の再建に当たっては都内各地の様々な古建築のパーツが再利用されていて、いわばブリコラージュ(様々なものを寄せ集めてつくられたもの)の建築ともいえます。
例えば正面のエントランスの上にあるバルコニーは、元々は東大の赤門前にあったタバコ屋で使われていたものだそうです。
正面に見える街灯も、撤去されていらなくなった街灯をもらい受けた上で、高さを縮めて再利用したもの。
よくよく考えれば、敷地内に街灯が4本も並んでいるのはおかしい気がするのですが、実際に訪れてみると全く違和感なく感じられるのが面白いところです。
ここで商店街の道路を渡って反対側に移動して建物全体を見てみます。
少し引いた目線で見てみると、奥に看板建築のような3階建ての建物が見えてきて驚きます。
近くで見ると2階たてのようにも見えますが、実はこの建物は3階建て。
奥に見えるのはまるで看板建築のような装いとなっていて、道路際に建つ勾配屋根の建物とはまた少し違った印象です。
看板建築は1923年の関東大震災以降に流行した建築様式で、木造町家の正面だけを銅板やモルタルといった不燃材で覆って西洋風に装飾したもの。
この看板建築という名称は、表面だけ垂直に建ち上がった壁面が大きな「看板」のような装いから建築史家の藤森照信氏が命名したものですが、まさか大橋眼科で見られるとは思ってもみませんでした。
現在の大橋眼科は元々の建物をイメージして再建されたものですが、看板建築が普及していくのは関東大震災以降です。
元の建物が看板建築の普及以前に、先駆的に西洋風の意匠を取り入れていたか、再建時に追加されたのかどちらかだと思いますが、恐らく後者ではないでしょうか。
昭和以降も宿場町として栄えた北千住には、こうした看板建築が数多く建てられていました。
再建に当たって鈴木氏が北千住の街の商店街の古き近代建築(看板建築)のイメージとして取り入れたのでしょうか。
ちなみに大橋眼科の建つ駅前通り商店街は歩道の上にアーケードが設けられていますが、ここ大橋眼科の前だけはアーケードが取り払われていて、その外観をたっぷり堪能できます。
これはこの見事な建築をより多くの人に楽しんでほしいということからの計らいなのかもしれませんが、本当にこの医院が地域の人に愛されていたのが伝わってきます。
もう1つ面白いと思ったのは窓上部の装飾です。
建物の各窓にはそれぞれペディメント(窓の上部に見える窓飾り)があしらわれていますが、よく見ると部位によってそれぞれデザインが異なります。
1階は三角形の形をしたペディメントが連続していますが、上階では四角だったり半円形の形だったりしています。
恐らくこれらの窓飾りも、他で解体されてしまった建物のパーツを再利用したものなのでしょう。
この建物が建てられた1980年以降は特になのですが、近年では物凄い勢いで近代建築は取り壊されて、当時の建築や街並みが失われていっています。
大橋眼科ではそうした行き場を失って、無きものになろうとしていた近代遺構を建物に取り入れることで、失われつつあった近代遺構に再び生を与えています。
わざわざそうしたパーツを集めることも、それを建物に利用することも大変な手間と労力がかかることだと想像できますが、こうした姿勢にはこの建物を完成させたつくり手の情熱と明確な意思を感じることができて嬉しくなってしまいます。
3.細かいところまで見どころ満載!大橋眼科を細部まで堪能しよう
大橋眼科を眺めていると細かいところにもその魅力や、新たな発見がいたるところに詰まっています。
例えば敷地と取り囲む塀の下部にはよく見るとこんなレリーフが。ついつい見逃してしまいそうですが、多くの人が気づかずに通り過ぎてしまう足元もしっかり凝ったデザインがなされています。
これは魔避け兼、装飾でしょうか。恐らく装飾的な意味合いが強いのですかね。
角部にもさりげなくレリーフがあしらわれているのは、発見すると少しうれしくなってしまいます。
大人目線だと気づきにくいこうした足元の装飾は、ひょっとしたら子供目線だとよく気付くのかもしれません。
大橋眼科の再建に当たって鈴木氏には、古き洋館医院のイメージを子供たちにも伝えたいという思いもあったそうですが、この建物からは大人だけでなく子供に向けた視線も確かに感じられて、一層感動します。
一見してちょっと怖そうなイメージもある大橋眼科ですが、そうした目線で見ると建物を囲む柵のデザインも面白いです。
本場ヨーロッパの洋館の柵は侵入者を拒むために柵の先端が鋭利な槍状になっていますが、大橋眼科の柵を改めてみてみると、そのデザインはクローバーのような丸みを帯びています。
鋭利な槍状のデザインも部分的に使われていますが、中間部で止まっているために絶対に刺さりません。
このデザインには、万が一にも誰かがけがをしないようによいう配慮もあるのだと思いますし、子供にもこの建物を親しんでほしいという明確な意思が感じられます。
こんなに素晴らしい建物が、閉館してしまったのは本当に残念ですが、いろいろな事情があることだと思います。
建築好きとして、そして大橋眼科に愛着が湧いてしまったこの建物のファンとして、どうかこの建物が引き続き多くの人々に親しまれることになることを願っています。
尚、大橋眼科の周辺の北千住の名建築についはこちらの記事で紹介していますので、興味のある方は是非合わせてご覧ください。
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大橋眼科医院
設計:鈴木英夫(飛田朝次郎)
所在地:東京都足立区千住3-31
アクセス:北千住駅徒歩約3分
竣工:1982年(1917年)
備考:2022年に解体
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