小田原「小田原文学館」で文学と近代建築をたっぷりと堪能

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今日は神奈川県の小田原市にある小田原文学館を訪れてきましたので、その模様をレポートしたいと思います。
実は近代建築としても貴重で見どころ満載の小田原文学館。いったいどんな建築だったのか、早速紹介していきたいと思います。

【自己紹介】
・建築好きのやま菜と申します。
・今までに約5000件の建築を巡った建築トリッパー
・今日も素敵建築を求めて東奔西走

【この記事で分かること】
・小田原文学館を実際に訪れたレポートを写真と文字で解説
・小田原文学館の基本情報やアクセス方法、訪れる際のポイント
・小田原文学館の建築的な見どころや注目ポイント

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1.小田原で建築巡り!注目建築 小田原文学館を見学

今日は東京から少し離れて、神奈川県の小田原市で建築巡り。
この日は、ずっと行きたかった小田原の江之浦測候所(えのうらそっこうじょ)を午前中に訪れていて、せっかく小田原を訪れたので、駅の周辺で建築巡りをしてきました。

江之浦測候所と言えば、現代美術作家で建築家でもある杉本博司氏が手掛けた壮大なランドスケープ・建築群。
単なるアートや建築といった枠組みを超えた美しさと深淵さをたっぷりと体感した後でしたが、実は小田原市には他にも注目の建築スポットがいくつもあります。

その中でもイチオシのスポットが、今回訪れた小田原文学館(旧田中光顕別邸)です。
もともと小田原は童謡や詩で有名な北原白秋や、文豪の坂口安吾をはじめ、様々な文学者や著名人を輩出している街でもあります。
上記の他にも小田原文学館のすぐ近くには、文豪の谷崎潤一郎が住んでいたことがあったりと、多くの文化人や政治家にに愛された土地でした。

そんな小田原文学館は、もともとは明治から昭和にかけて名をはせた政治家の田中光顕氏の別邸として戦前の1937年に建てられました。
その設計を手掛けたのは、同じく明治から昭和を代表する建築家の曽禰達蔵です。
曽禰氏といえば、ジョサイア・コンドルに建築を学び、東京駅などを設計したあの辰野金吾らと共に工部省工学寮(現在の東京大学工学部)を最初に卒業した建築家でもあります。
彼の代表作には世界遺産にもなった長崎造船所 占勝閣(1904年竣工)やこのブログでも三田の建築巡りで紹介した慶應義塾大学図書館(1912年竣工/重要文化財)、近代建築ファンにはお馴染みの小笠原伯爵邸(1927年竣工/東京都選定歴史的建造物)など数々の名建築を手掛けた建築家でもあります。

そんな彼が、生涯の最後の作品として設計したのが、今回訪れた旧田中光顕別邸。
この旧田中光顕別邸は1994年に改修がなされ、小田原ゆかりの文学者についての展示を行う小田原文学館となりました。

現在では敷地内に建つ別邸(現在の白秋童謡館/1927年竣工)と共に国の登録有形文化財となっていて、文学ファンのみならず、建築ファンにとっても見逃せないスポットとなっています。

小田原文学館は小田原城から南に歩いて約10分、小田原駅からだと20分ほど歩いた閑静なエリアにあります。
低層の住宅や田畑が広がり、相模湾からもほど近いのどかな場所に深い緑が生い茂る場所がありますが、こちらが小田原文学館の入口です。
この中に文学館の本館として使われている旧田中光顕別邸と白秋童謡館(共に登録有形文化財)と、移築された旧尾崎一雄邸の3棟の建物と庭園が広がっています。

2.歴史を感じる近代建築をたっぷりと楽しもう

まず、敷地に入ってすぐ左手に見えてくるのが、小田原出身の北村透谷(きたむら とうこく)の記念碑です。

北村透谷は1873年(明治6年)生まれの詩人・評論家で、25歳でその短い生涯を閉じましたが、後の文豪 島崎藤村ら少し下の世代の文豪や文化人にも大きな影響を与えた人物。
ちょっと不思議な形の記念碑は、小田原出身の彫刻家がデザインしたものだとか。

さらに進むと見えてくるのが文学館の本館です。
隣に建つ木造の管理棟と併せて、この時代にアメリカで流行していたスパニッシュ風のデザインが特徴の建物です。
昭和初期のスパニッシュ風の建築と言えば、このブログでも茅場町の山ニ証券(西村好時設計/大正時代)や目黒の東京都庭園美術館(旧朝香宮邸/宮内省内匠寮+アンリ・ラパン/1933年)などを紹介しましたが、ここ旧田中光顕別邸もその時代の建築を今に伝える貴重な歴史遺産でもあります。

東京都庭園美術館(東京都港区)

本館は個人の邸宅ではありますが、鉄筋コンクリート造の3階建てとなっていて、当時最先端だったスパニッシュ様式と、モダニズム建築を融合したようなデザインは、当時の人々をさぞ驚かせたのではないでしょうか。
ちなみに邸宅としてスパニッシュ様式を採用し、いまも見れる近代建築と言えば1927年に新宿に建てられた旧小笠原伯爵邸ですが、この設計者も旧田中光顕別邸と同じ曽禰達蔵だったりします。
旧小笠原伯爵邸の竣工から10年、曽禰達蔵の生涯最後の作品として建てられたのが、この旧田中光顕別邸(小田原文学館)なのです。

スパニッシュ様式の特徴でもある屋根の瓦は、スペインからわざわざ輸入したものを使っているそうです。
この屋根のデザインは、通常の屋根部分は日本の気候に合わせて軒の深いデザインにアレンジされていますが、バルコニーの手すりの壁の状につく瓦は最小限の出になっていて、本場スパニッシュ様式に近いデザインとしているなど、細かい建築的な見どころが、建築好きにとってはたまりません。

スパニッシュ風のデザインは、エントランスとは反対の庭園側で特に印象的。
こうしてみると、東京都庭園美術館と共通する要素が多く見られ、その影響を感じることができます。

3階のバルコニーは実際にそのと出てみることができるので、当時田中光顕氏ら大物政治家の見ていた小田原の風景を疑似的に体験できます。
バルコニーを見ると、先ほど触れた瓦の小さな軒の出がよく分かります。

3.小田原ゆかりの文豪たちの知られざる生活や魅力を堪能

文学館の入館料は、一般が250円、小・中学生が100円とかなりリーズナブルなお値段です。
本館でチケットを購入すると、そのまま敷地内の他の建物も見学できます。

1階のサンルームやテラスも体験でき、当時の雰囲気を存分に味わうことができました。
文学館は1階が芥川賞作家の尾崎一雄や先ほど記念碑を見た北村透谷ら小田原出身の展示が、2階では、谷崎潤一郎や坂口安吾などかつて小田原に住んでいた文豪達の展示がされていました。

この日は常設展示のみでしたが、タイミングによってはテーマを決めた企画展が催されたりもしているみたいです。
常設展の展示内容は、文学館らしい小説の原稿や草案、メモの他にもその人となりが分かる生活用品や衣服などの展示もあって、遠い存在だと思っていた彼らの存在がぐっと身近なものになりました。

残念ながら建物内は撮影出来なかったのですが、決して派手ではないですが、和洋の要素が融合したインテリアや、建物中央の階段など見応えのある建築を堪能できました。

4.その他にも2つの近代建築がみられる小田原文学館

小田原文学館の本館の他にも奥に建つ白秋童謡館と、移築してきた旧尾崎一雄邸の2つの建物があります。

本館前の庭園をさらに進み、緑が生い茂る小路の先にまず見えてくるのは、こちらの旧尾崎一雄邸です。

尾崎一雄といえば、旧田中光顕別邸が建てられた1937年に芥川龍之介賞を受賞した小説家ですが、小田原市内に建っていた旧尾崎一雄邸「冬眠居」の一部がこちらの敷地内に移設・保存されています。

建物自体は戦後間もなくの時期に建てられたもので、移築は元の建物の一部のみではありますが、昭和の文豪の書斎を間近で垣間見ることができます。
残念ながら見学ができるのは外からのみですが、使われている材料のほとんどは、当時の建物のものを利用しているそう。

旧尾崎一雄邸の先にあるのが北原白秋についての展示を行う白秋童謡館です。
実はこちらの和風の建物が先ほどの本館より前の1924年(大正13年)に建てられた建物。

1924年といえば、関東大震災の翌年ですので、震災で被害を受けた建物の建て替えとして建てられたのでしょうか。
こちらの建物はスペイン風の本館とは違い和風のデザインですが、楼閣のようなデザインにこだわりを感じます。

本館と同じチケットで内部を見学でき、おばあちゃんの家に来たような懐かしい雰囲気を堪能しました。
北原白秋といえば童話のイメージが強いですが、そんな白秋との相性もピッタリの素敵な展示空間となっていました。

小田原文学館をたっぷりと堪能した後は、小田原周辺の建築巡りもしてこの日の建築見学は大満足で終了。
小田原の建築巡りについては、別の記事でもレポートしたいと思いますので、興味のある方はあわせてお読みいただけると嬉しいです。

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■小田原文学館
設計:曽禰達蔵(小田原文学館本館/旧田中光顕別邸)
所在地:神奈川県小田原市南町2-3-4
アクセス:小田原駅徒歩約20分
開館時間:
 3月~10月:10:00~17:00
 11月~2月:10:00~16:30
休館日:月曜日、年末年始
入館料:一般250円、小・中学生100円
オープン:1994年
竣工:1924年(白秋童謡館)、1937年(本館)
その他:登録有形文化財(本館、白秋童謡館)

※記載している営業時間や金額は記事執筆時点のものです。変更となっている場合もありますので、訪れる際は公式HP等をご確認ください。


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